広報誌「さいたま」2024年7月 No.292より
埼玉県では昨年の6月~9月の高温・干ばつによって水稲や大豆に経済的被害を受けたため特別災害の指定を受けました。当JA管内では7月~9月中の最高気温は平年に比べ2~3℃高く、7月~8月の降水量は平年を大きく下回った結果、作付の多いサトイモやネギなどの秋冬どり野菜では生育不良や品質低下を招きました。気象庁の3カ月予報によると本年の夏期の気温は平年に比べ高くなると予報されています。そのため、野菜や花など園芸作物の栽培が本格化する前に昨年までの管理を見直して最善の対策を講じましょう。
①播種時期を遅らせる:直播栽培するニンジンやダイコン等、発芽と根部生育に高温の影響を受けやすい野菜では、これまでの播種時期を1~2週間程度遅らせて高温に遭遇する機会を減らしましょう。その際、品種ごとの播種適期を考慮してください。
②遮光・遮熱資材等を活用する:播種直後に高温の影響を受けやすいニンジンやダイコン等では地温上昇を抑える白色タイプの遮光ネット(遮光率40~50%)を播種直後から本葉展開始め頃まで被覆することで発芽揃いを高めることができます。小規模の場合、白寒冷紗や稲わら等で地表を被覆するだけでも同様の効果が期待できます。また、ダイコン等では雑草抑制効果の高い黒色マルチフィルムに代わって白黒ダブルマルチを使用すると生育障害を軽減し品質を高めることができます。なお、近年ブロッコリーやキャベツ等で利用の多いセルトレイで育苗する場合、表側が白色に加工された白黒タイプを利用し白色の覆土材(シリカリュウ等)を組み合わせるとガッチリした硬い苗を育成できます。
③風通しの良い育苗環境:育苗箱や育苗鉢は、苗床に直置きすることは避け、ベンチやコンテナの上に置いて地温上昇等を防ぐことで、徒長した生育と病害虫の発生を抑えて健苗を育成しましょう。
①計画的なうね間灌水による管理:肥大中のサトイモ、ナスやエダマメ、葉根菜類等では継続的な水分補給を欠かすことができません。水田転換畑など用水や井戸水を利用できる圃場では積極的に活用しましょう。少雨の時にはうね間灌水が最も省力的に取組みやすい灌水方法です。
②灌水効果を高めるタイミングと方法:灌水のタイミングは、空梅雨や10日以上晴天が続き、土壌表面が乾燥したりナスでは果実の光沢が無くなるなどの兆候が見られたら開始しましょう。灌水間隔を5日前後とした間断灌水が効果的で、灌水時間は地温低下の効果が得られやすい夕刻から翌朝まで行うのが良く、病害が発生しないよう灌水後にはうね間には水を溜めないようにしてください。
地球温暖化に伴う夏期の高温対策として、施設栽培の花きや野菜において夜間のヒートポンプ冷房が使われ、その必要性が高まっています。農業用ハウスの冷房に使用している地中熱ヒートポンプは、主にクローズドループ式とオープンループ式の2つのタイプに分けられ、現状のシステムは前者が主流となっています。
最近、農研機構が開発したオープンループ型直接膨張式ヒートポンプは、既存の空気熱源ヒートポンプの熱交換器部分の冷媒経路を改良したもので、井戸からくみ上げた地下水を熱源としているため低コストで冷房効率を高めることができます。
図 農研機構が開発したオープンループ型直接膨張式ヒートポンプ
広報誌「さいたま」2024年6月 No.291より
中国産のなし、りんご花粉を昨年度使用した皆様
もしも火傷病と疑われる症状が見られた場合はすぐにご連絡ください!
中国で火傷病が発生したため、輸入花粉を通じての侵入・まん延を警戒しています。
詳細は以下のURLを参照
参照先:農産物安全課ホームページ
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0907/nb/yakedo.html
さいたま農林振興センター 管理部 地域支援担当
篠川、山田、西山 048-822-2492
→幼果の腐敗
(提供:Syngenta United States)
→幼果のミイラ果症状
(提供:三井物産(株))
広報誌「さいたま」2024年6月 No.291より
令和5年は7~9月が観測史上1位となる記録的な高温となりました。最も大きな特徴は、例年は高温であっても一時的に気温が低下する期間があったのに対し、令和5年は7~9月まで連続して高温が継続したことです。このため早期から普通期栽培までほとんどの作型で白未熟粒が多発しました。また、白未熟粒が発生した水稲の中には、穂肥施用時期より早くに、葉色が著しく低下したものが多くみられました。
白未熟粒の発生を抑える方法の一つに穂肥施用時期の葉色を葉色版で4~4.5に維持することがあります。そのためには葉色診断に基づいた穂肥前の追肥が有効ですが、作付け品種によっては「彩のきずな」のように生育期間が短く追肥を行うのが難しいものもあります。このような場合、元肥一発肥料が有効になります。品種、作型に合った元肥一発肥料を用いることで、持続的に肥効を維持し、急激な葉色低下を軽減することができます。
ただし、元肥一発肥料を用いても、令和5年のように高温が連続した場合には葉色が低下することがあります。そのような時は葉色診断を行い適切な量の穂肥を施用しましょう。
広報誌「さいたま」2024年5月 No.290より
JAさいたまでは組合員の皆様の所得と農業生産の拡大を実現するために環境負荷に配慮した農業生産への取り組みを進めています。しかしながら近年、気象変動とそれに伴う病害虫の発生が頻発して大きな障害となっています。農薬はこれらの障害を解消する有効な農業資材ですが、農薬使用には農産物における残留や飛散による危被害事故などのリスクを伴います。そのため、農薬を安全に使用するための方法について一層理解を深めることが大切です。そこで、安全性に配慮した農薬の効果的な使用方法を紹介します。
近年起きている農薬による事故・被害の発生状況を踏まえると、発生防止を図るために安全に農薬を使用する際には次の事項を重点的に考慮する必要があると思われます。
温暖となるこれからの季節、病害虫が増加するため農薬によって防除する機会が増えます。その一方害虫では抵抗性の発達によって効果が低下することが問題となります。夏野菜や果樹等に発生するハダニ類はその代表的な害虫の一つで、作用性の異なる農薬を選択してローテーション防除することが非常に大切です。近年はハダニ類の防除には「気門封鎖剤」(表1)と言う昆虫やダニ類の気門(呼吸を行うための器官)を物理的に塞いで窒息死させる農薬が活用されるようになり、薬剤抵抗性が発達したハダニ類やコナジラミ類等の害虫への有効性が認められています。主成分が食品添加物等のため安全性が高く、適用作物の種類も多い農薬です。使用効果を高めるポイントは、薬液が直接付着しないと効果が無いので、むらなく薬液がかかるように葉の表裏に丁寧に散布し、残効が短いため5~7日間隔で連続散布することです。
薬剤名 | 有効成分 | 適用作物※ | 適用病害虫(△:効果の低い事例あり) | 備考 | |||
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ハダニ類 | アブラムシ類 | コナジラミ類 | うどんこ類 | ||||
粘着くん液剤 | ヒドロキシプロピルデンプン | 野菜類、かんきつ、りんご、もも、かんしょ、らっかせい、花き、観葉植物、茶 | ◯ | ◯ | △ | △ | 容器を良く振ってから使用 |
エコピタ液剤 | 還元澱粉糖化物 | 野菜類、果樹類、いも類、とうもろこし、花き、観葉植物、ごま | ◯ | ◯ | ◯ | △ | 高湿度時の使用は避ける |
アカリタッチ乳剤 | ヒドロキシプロピルデンプン | 野菜類、果樹類、いも類 | ◯ | ◯ | 高濃度での散布は避ける | ||
ムシラップ | プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル | 野菜類、果樹類、花き、観葉植物 | ◯ | ◯ | ◯ | △ | 展着剤は可用しない |
フーモン | ポリグリセリン脂肪酸エステル | 野菜類、かんきつ、きく | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | 展着剤としての登録あり |
サフオイル乳剤 | 調合油 | 野菜類、かんきつ、とうもろこし、花き、観葉植物 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | 殺卵活性(ふ化阻害効果)あり |
※ 薬剤によっては適用作物の種類ごとに使用方法が異なるものがあるので、農薬のラベルを必ず確認してください。
※※ いずれの薬剤は夏季高温時や作物によって薬害を生じることがあるので「使用上の注意事項」をよく読んで使用してください。
広報誌「さいたま」2024年4月 No.289より
春から農作業が本格化します。農作業事故が起きないよう安全対策に努めましょう!
令和4年の1年間で報告された農作業事故は21件、うち3件が死亡事故でした(図1)。
内容別では「つまずき・転倒」、「機械への巻き込まれ」が5件で最多となっています(表1)。
年代別では60代以上が全体の70%を占める一方で、40歳未満の若手でも事故は発生しています(図2)。
発生数では春秋の農繁期及び夏に多く発生しており、夏は熱中症事故が発生しています(図3)。