広報誌「さいたま」2021年3月 No.252より
これから家庭菜園や直売用の春夏野菜の栽培がスタートします。皆さんもお気づきかと思いますが、近年これまでに無かった重症化しやすい病害虫の被害が目立つようになっています。そこで、作付の多い葉物野菜とネギ類に発生する難防除害虫2種についてその特徴と防除のポイントをご紹介します。
ホウレンソウやコマツナなどは耐寒性が高く、厳寒期でも青々と育つ葉物野菜ですが、ハクサイダニに加害されると、葉の表皮が表裏とも霜焼けになった様に銀白化し、ひどくなると枯死してしまいます。被害作物は、葉物野菜のほかダイコン、カブ、レタス、ネギなど多犯性です。成虫と幼虫の活動時期は10月頃から翌年の3月頃まで、春から夏の間は産み付けられた休眠卵が土中や作物残さに混じって過ごすという変わった習性を持った害虫です。5℃位の低温域でも増殖できるので冬期間に重症化しやすいです。成虫の大きさは1ミリ前後と微細ですが、特有の体色と葉の付け根付近に群がっているので比較的発見しやすいと思います。
この様な生態のため、薬剤散布(アディオン乳剤・コテツフロアブル・ダイアジノン粒剤等)などの防除を行っていないと重症化しやすく、また被害残さと共に休眠卵が畑に残って秋に作付けする野菜に発生することになるため、この休眠卵の夏越しを少なくすることが最も有効な防除対策になります。具体的には、被害残さと発生した畑は放置せずに、残さは土中深く埋没処分し、畑は耕うんを繰り返し行って卵や親虫を残さと一緒に腐敗させ生存率を低くすることが大切です。なお、親虫・卵とも高温と多湿に弱いので、畑全面の密度を下げるには、夏期に太陽熱利用の土壌消毒をすると良いでしょう。
葉が白化したホウレンソウの被害株と株元に群がるハクサイダニ(体長1mm前後、胴体は黒色、4対の橙赤色の脚)と卵塊
近年、8月頃から秋にかけて根深ネギの畑では激しい葉枯れ症状が目立つようになりました。葉枯れ症状には黒斑病や軟腐病などの病害によるものもありますが、ネギハモグリバエの幼虫による食害によるものが多くなっています。ネギハモグリバエは以前からいた害虫ですが、被害を激しくしている種類は、従来の系統(A系統)と異なる別系統(B系統)で、2年前に埼玉県や近隣県等のネギ産地で発生が確認されたものです。食害程度が激しいと、ネギの品質収量を低下させます
この害虫は、成虫・幼虫とも小型で増殖スピードが速く、蛹が地表や土中で過ごすことから、害虫を直接発見することが難しいです。右の写真などを参考にして早期に発見して薬剤散布などの防除を行うことが大切です。薬剤散布は、薬液の茎葉散布だけでなく、土寄せ時の薬液の土壌や株元への灌注、粒剤の株元散布を併用すると効果的です。また、産卵や食害された被害葉や収穫残さを畑の近くに放置してしまうとそこが発生源となって一層被害が拡大してしまうので、皮むき調製作業で出る残さも含めて土中深く埋没するか、ビニールフィルムで密閉被覆するなどして適正に処分してください。
ネギハモグリバエの被害株と食害痕の拡大(白色の点と不規則な線状)。右下は成虫と幼虫(体長3~4mm)
病害虫防除の第一歩は正確な診断です。経験したことのない病害虫に遭遇した時には、農林振興センターやJAのTACなどに相談して正しく診断して防除対策を講じてください。
広報誌「さいたま」2021年2月 No.251より
農作物の安定生産のためには、適切な病害虫防除が必要です。病害虫に対する農薬の効果を少しでも長く持ち続けるポイントとなる農薬の番号(RACコード)について理解しましょう。
同じ薬剤や同じ系統(種類)の農薬を連続して使用すると、効果が低下し「農薬が効かなくなった」経験があると思います。薬剤抵抗性とは、今まで効果があった農薬の効果が低下する現象です。
薬剤抵抗性は害虫や病原菌が、農薬に対して徐々に強くなったわけではありません。自然界にもともと薬剤に抵抗性を持った個体が存在し、同じ薬剤を使い続けることで生き残ったその個体だけが子孫を残すために起こる現象です。(図1)つまり同じ薬剤を連続して使用すると農薬の持つ防除効果が薄れてしまいます。
薬剤ごとの系統を見分け、農薬の効果を持続させるために重要となるのがRACコードです。RACコードとは農薬の国際的な組織である世界農薬工業連盟が農薬の種類(系統)ごとに番号をつけたものです。RACコードの番号が同じである農薬を使い続けることは病害虫が薬剤抵抗性を発達させることに繋がります。
各メーカーへの表示義務はないものの、多くの殺菌剤・殺虫剤・除草剤のラベルに図2のように記載されています。農薬の番号は、殺菌剤【FRACコード】、殺虫剤【IRACコード】、除草剤【HRACコード】に分けられています。
薬剤抵抗性の発現を回避し、農薬の効果をなるべく長く保つためには、ローテーション防除(輪番防除)が有効です。異なるグループ(RACコードの数字)の薬剤を順番に散布することで、薬剤に対する抵抗性の発達を抑制できます。ローテーション防除を意識した防除体系を行いましょう。
広報誌「さいたま」2021年1月 No.250号より
厳寒期となるこれからの野菜の露地栽培では、保温を目的としたマルチやトンネルなどを積極的に利用している方は多いと思います。冬期の栽培では野菜の種類や生育ステージにあった温度確保を図ることが最も重要ですが、これ以外にも降雪や鳥害による影響も考慮に入れる必要があります。そこで、保温用資材の特性と効果的な利用法、冬期に多い降雪などの気象災害や鳥害対策を中心にご紹介します。
冬期~早春期の露地栽培では、低温や寒風、降霜などによる発芽や生育不良を軽減し品質を確保するために被覆資材は是非活用したいものです。使用する被覆資材は「フィルム資材」と「べたがけ資材」に大別されます。
フィルム資材は、素材が農業用のビニールやポリエチレンなどで、トンネル被覆として使用すると保温性能が発揮できます。発芽適温が20℃以上と高いニンジンなどや低温に遭遇して花芽分化が進みとう立ちしやすいダイコンなどでは厳寒期に使用するのが効果的です。最近は、廃棄処理が容易でビニール並みの保温性を持った農PO(ポリオレフィン系)のフィルムも入手しやすくなっているのでご使用ください。昼夜の温度差が大きくなる早春期の栽培や換気労力を軽減したい場合には、予め換気孔が開けられている換気フィルムを利用すると良いでしょう。
べたがけ資材は、素材がポリプロピレンやポリエチレンなどで、長繊維不織布(パオパオ90等)と割繊維不織布(日石ワリフ等)があり、保温性があると同時に適度の通気性を持っています。昔から使用されている寒冷紗もほぼ同様な効果があります。これらの資材は、光線透過性が高く、軽量で取り扱いが容易なため、トンネル被覆のほか、べたがけ(直がけ)や浮きがけなど、圃場の規模や形状にあわせて展張利用することが容易です。比較的発芽・生育適温が低いホウレンソウやコマツナなどでの利用がお薦めです。不織布類は高温期を除けば使用場面も多く、比較的安価なので積極的に利用しましょう。
換気フィルムのトンネルと不織布のべたがけ
柿などの果実が無くなる年明け頃から、野菜にヒヨドリの食害が目立ってきます。冬どりのブロッコリー・ハクサイ、春キャベツの苗などでは被害が甚大となります。最も確実な被害対策は、防鳥ネットやべたがけ資材・防虫ネット等を展張して被覆することです。防鳥ネットを効果的に設置するには、ネットの網目は30ミリ前後のものを使用し、圃場の天井全面だけでなく周囲にも展張し、ネット越しに食害されないように作物との間には十分な高さを確保することです。数メートルおきに直管支柱(上端にポットボトルを被せる)やトンネル用の支柱やポールを利用して作業空間を作っておくと収穫期間中に圃場への出入りも容易になって便利です。
ブロッコリーを食害中のヒヨドリ
(「埼玉の農作物病害虫写真集」より引用)
苦労してトンネルやべたがけを行っても、冬場は強風によって飛ばされたり、積雪によってトンネルがつぶれ、作物に被害を生じてしまいます。ダイコン等ではとう立ちが早まることもあります。そのため、被覆資材の使用に当たっては、展張時には必ずマイカ線やトンネル用弓を使ってフィルムを抑え、降雪時には早めに除雪作業を開始してください。
降雪によって損壊したトンネル
(不織布や防虫ネットには着雪しやすい)
広報誌「さいたま」2020年12月 No.249号より
昨年に引き続き、今年も県内においてサトイモ疫病の発生が確認されました。本病は感染力が強いことが特徴で、収量が半減するなど大きな問題となっています。次作の発生を抑制するため、今から対策を行いましょう。
対策1. 残さや野良生えのイモを放置しない
畑に残した残さ、菌が感染した種イモ、野良生えのイモはロータリーで数回(最低3回以上)破砕したのち、堆肥の微生物又は残さ分解用の微生物資材を活用するなどして作付け前までに完全に分解させましょう。野良生えのイモは除草剤の活用も有効です。
対策2. 植付け前の種イモの消毒
種子消毒液がイモ本体に届くように、ケミクロンGで消毒した用水で表面をよく洗浄して土を落とします。菌が深部まで入って劣化・腐敗したイモ(水に浮く)を選別除去したのち、再度ケミクロンGで消毒した用水で洗浄します。外観・触診、水浸漬
対策3. 散布通路の確保
疫病用の薬剤は、発病部位に付着しないと効果がありません。散布薬剤を株元にしっかり届けるために、適宜散布用の通路を確保しましょう。
対策の詳しい方法はさいたま農林振興センターホームページをご覧ください
この記事は令和2年2月サトイモ産地を救う研究開発コンソーシアム発行「サトイモ疫病対策マニュアル」を参考に作成しました。
広報誌「さいたま」2020年11月 No.248号より
今年は7月に長雨となり、防除が困難な時期が続きました。そのため、一部圃場でなし黒星病の発病が見られています。来年の発病を防ぐためにも秋の対策をしっかりと行いましょう。
なしの果実に黒い斑点が生じたり(写真1)、葉脈に沿って黒い斑点ができたりする病気です(写真2)。春から夏にかけて症状が顕著に表れますが、10~11月の降雨が多い時期にも多発します。
病原菌は落ち葉やりん片上で越冬し、翌春の感染源となります。そのため、病原菌を越冬させない対策をすることが重要です。
(1)落葉処理
黒星病の病原菌は落ち葉から拡散します。落ち葉はそのまま放置せず、土中に埋めるか園外に持ち出して処分しましょう。落ち葉はカメムシ類の越冬場所にもなるため、害虫防除にも効果的です。
処分の仕方としては、
①熊手やブロワーを使って落ち葉を処理しやすい場所にまとめます。この時、園周辺の側溝に溜まった落ち葉もかき出します。
②落ち葉を粉砕し、土中にうないこみます。落ち葉の原型をとどめないにすることが重要です。
(2)薬剤散布
病原菌がりん片に感染するのを防ぐため、農薬散布を忘れずに行いましょう。防除効果を高めるために散布量は十分確保しましょう。
写真1 黒星病に感染した果実
写真2 葉面上の秋型病斑
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広報誌「さいたま」2020年10月 No.247号より
継続的な土づくりが行われている水田の稲には高温障害が出にくいことが分かっていますが、皆さんの田んぼでは如何でしたでしょうか。
なかでも、稲わらのすき込みは水田の土づくりに欠かせない取り組みの1つですが、すき込む時期が遅過ぎたり稲わらの腐熟が不十分だったりすると、次の様な弊害を起こす場合がありますので、注意が必要です。
入水後、分解されなかった稲わらが水面に浮き上がり、代かきや田植え作業の邪魔をします。また、水中のわらの量が多いと、施用した農薬が拡散するのを妨げて薬害を引き起こしたり、稲の活着を遅らせたりすることがあります。
春の訪れとともに地温が上昇し、微生物の活動が盛んになると、土壌中の酸素の消費量が増加します。特に入水後は、大気中からの酸素の供給が絶たれてしまうので酸欠状態になりやすく、これが有害ガスの発生(ワキ)を招いて、苗の活着不良や根腐れ等の症状を引き起こします。
こうした被害に遭わないためには、まだ地温が高く微生物の活動が活発なうちに、稲わらのすき込みを終えておくことが重要です。また、稲わら等の未分解有機物は、土壌微生物に分解される過程で窒素を消費しますので、必要に応じて「スーパーワラブレンド」や「石灰窒素」等を施用すると良いでしょう。
また、早めのすき込みは次年度の病害虫防除にもなります。写真は、収穫後に出てきた再生株(ひこばえ)ですが、縞葉枯病に感染して黄色く変色していることがわかります。
この状態を長く放置しておくと、ここで越冬するヒメトビウンカが次々に縞葉枯病ウイルスを体内に取り込み、翌年に被害を拡大させてしまいます。また、再生株の除去は、等級落ちの原因となる斑点米カメムシの密度低減にも効果的ですので、被害に悩まれている方は必ず実施してください。
再生株(ひこばえ)の状況
広報誌「さいたま」2020年9月 No.246号より
近年、農作物の種類が多様化する一方、新しい病害虫の発生が拡大するなど農薬による防除への依存度は一層高まっています。そのため、農薬の使用に当たっては、食料生産を前提として農薬残留を生じない適正な使用はもちろん、環境保全や危被害防止などへの配慮が高まっています。一方で、農薬の使用場面では、農薬に対する病原菌の耐性や害虫の抵抗性の発達による効果の低下が大きな問題となっており、農薬のこれらの特性などについても正しく知って効果的に使用する必要があります。
近年県内で起きている農薬事故は、周辺からの農薬の飛散(ドリフト)や散布器具の洗浄不足などによって生じた残留・危害によるものです。飛散防止対策として、(1)風の弱い時に風向きに注意し、(2)散布の距離は方向・位置に注意し、(3)適切なノズルを使用し、適正な圧力で、(4)適正な散布量で散布し、また(5)ドリフトを低減する作物・資材を利用し、(6)ドリフトを生じにくい農薬(粒剤等)の使用などにも取り組みましょう。
動力噴霧機の使用に当たっては、前作物に使用した薬剤がタンクやホース内等に残って後作物に散布され残留農薬が検出されることがあるので、必ず器具を念入りに洗浄する習慣をつけましょう。
農薬の適正使用の第一歩は、農薬のラベルに記載されている適用作物と適用病害虫名、希釈倍率や使用時期・回数などの記載事項を遵守することです。例えば、芋を収穫物とする「さといも」と八つ頭などのずいき(葉柄)を収穫物とする「さといも(葉柄)」は別の作物として分類されているため、さといも(葉柄)で使用できない農薬があるので(表1参照)、登録内容を必ず確認してください。
農薬に対する耐性や抵抗性の発達によって効果が低下しないように農薬を選択するには、作用機構による分類(RACコード)の利用をお薦めします。殺菌剤ではFRAC、殺虫剤ではIRAC、除草剤ではHRACと称した分類コードが公表されています(農薬工業会HP https://www.jcpa.or.jp/labo/mechanism.html)。
なお、RACコードは現在一部の農薬のラベルに表示されていますが、全てに表示されていないため、上記のホームページ等で確認してください。この分類では、同じ作用機構を持つ農薬成分や農薬名がグループ分けされているので、作用機構が同一のグループ内や近縁の農薬を頻繁に使用すると抵抗性が発達するリスクが高まるため、異なるRACコード内の農薬を選択してローテーション使用することで、効果的で経済的にも有利な薬剤防除を行うことが可能になります。
8月~10月にさといもで被害の多いハスモンヨトウを防除する際に使用できる殺虫剤をIRACコードによって分類したものが表1です。殺虫剤の使用に当たっては、この表のIRACコードで害虫の神経に作用する1Bや3Aグループ等の農薬の連用は避け、消化器に作用する11A、呼吸・エネルギー代謝に作用する13、脱皮阻害に作用する18の各グループに含まれる農薬を組み合わせてローテーション散布しましょう。なお、防除効果を高めるには、集団で加害している若齢幼虫のうちに薬剤散布することがポイントです。
広報誌「さいたま」2020年8月 No.245号より
早期栽培の「コシヒカリ」の現在の生育は平年並みです。病害虫ではヒメトビウンカがやや目立ち、縞葉枯病が散見されています。
早期落水すると品質低下や減収を招く恐れがあります。ほ場条件によって収穫作業に支障がない限り、完全に落水するのは収穫10日前から2週間前にしましょう。
早刈りは青未熟粒や充実不足、刈遅れは胴割米や薄茶米の増加など品質の低下につながります。刈取りの目安は、「出穂後日数」と各ほ場の出穂後の「積算温度」と「帯緑色モミ割合」(図1,2参照)をみて総合的に判断します。帯緑色モミは、わずかでも青みが残っているモミのことです。判断方法としては穂を5~6本調べ、元の方に青みが残っているモミの割合がどのくらいかを観察しましょう。
図1 帯緑色モミ
図2 帯緑色モミ割合の見方
品種 | 作型 | 出穂後の積算温度(°C) | 帯緑色モミ割合(%) | 出穂後日数(日) |
---|---|---|---|---|
あきたこまち | 早期 | 850~1,000 | 約10 | 33~37 |
コシヒカリ | 早期 | 950~1,150 | 10~15 | 35~44 |
彩のかがやき | 早植 | 910~1,110 | 穂の下部3割程度 | 35~44 |
普通 | 1,010~1,250 | 穂の下部2割程度 | 44~58 | |
彩のきずな | 早植 | 900~1,200 | 50~10 | 35~48 |
普通 | 900~1,100 | 40~15 | 38~48 |
※作型の目安:
早期(早生種を用い早植えし、8月下旬おそくても9月上旬に収穫できるもの)
早植(中晩生種を用い5月末日までに移植するもの)
普通(6月以降移植するもの)
乾燥仕上げの水分は、14.5%~15%を守り、過乾燥を避けましょう。特に、高水分モミの高温急激乾燥は、胴割米等が発生し、品質低下の原因となりますので、送風温度は40°C以下にしましょう。ライスグレーダーの網目は1.8mm以上で選別し、適正流量を守って調整しましょう。
イネ収穫後のひこばえ(再生株)はヒメトビウンカの生息場所となり、縞葉枯病の伝染源となるので、収穫後は速やかに耕うんし、株を枯死させましょう。また、早めのすき込みは、腐熟促進にもなります。
外来種のスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)がJAさいたま管内でも生息域を拡大しており、田植え直後の柔らかい稲では食害の危険があります。今後の対策として、冬季の耕うんや石灰窒素の散布が効果的です。ジャンボタニシの貝殻は、薄く傷つきやすいためロータリー耕で、貝を破壊、傷つけることで防除に取り組みましょう。
水田のジャンボタニシ
産み付けられた卵塊
広報誌「さいたま」2020年7月 No.244号より
埼玉県農業大学校は、農業の生産・加工・流通・販売等に関して一貫して学ぶことができる、実習を主体とする専修学校です。農業及び農業関連産業で活躍できる人材の育成を目指した教育を行っています。
学科は、卒業後には「専門士」の称号を得られる2年課程(野菜・水田複合・花植木・酪農)と、短期間で農業について学ぶことができる1年課程(短期農業)があります。
きれいで快適な木造校舎と充実した施設を備える埼玉県農業大学校で農業の知識と技術を身につけ、農業分野での活躍を目指しませんか。
入学願書など出願に必要な書類は埼玉県農業大学校のホームページからダウンロードできます。
日曜オープン見学会や農業実習体験講座も開催します。この機会に足を運んでみませんか。
詳細はホームページで御確認ください。↓
https://www.pref.saitama.lg.jp/soshiki/b0921
課程 | 学科名 | 定員 | |
---|---|---|---|
2年課程 | 野菜 | 30名 | 90名 |
水田複合 | 5名 | ||
花植木 | 15名 | ||
酪農 | 5名 | ||
1年課程 | 短期農業 | 35名 |
入試区分 | 出願期間 | 試験日 | |
---|---|---|---|
推薦入試 | 令和2.10.1(木)~10.13(火) | 令和2.10.29(木) | |
一般入試 | 前期 | 令和2.11.2(月)~11.13(金) | 令和2.11.27(金) |
後期 | 令和3.1.4(月)~1.13(水) | 令和3.1.28(木) |
※一般入試前期で定員が満たされた専攻は、一般入試後期の試験を実施しない場合があります。また、試験日程が変更となる場合があります。最新の情報はホームページで御確認ください。
広報誌「さいたま」2020年6月 No.243号より
気象庁は、地球温暖化による気候変動の影響で今後も気温の上昇傾向が継続すると予測しています。また、昨年は台風19号等巨大台風の襲来による大雨で農作物に甚大な被害がもたらされました。ここでは、夏期の高温障害や大雨による被害とその対策について紹介します。
水稲では出穂期後に日平均気温が27°C以上に経過すると玄米が白く濁る「白未熟粒」や「胴割粒」が発生して等級落ちの原因となっています。この他、令和元年産では「褐色米」や害虫類が原因でない「くさび米」が発生しました。「褐色米」はカビ(糸状菌)が原因で発生し、「くさび米」は水ストレス(植物から水が失われることにより起こる障害)が関係していますが、いずれも登熟期の高温で発生が多くなります。
高温登熟障害の対策としてケイ酸を施用すると高温時でも根の活性が維持され、水分吸収が旺盛となり、光合成能が高く維持されるため「白未熟粒」等の発生が抑制されると考えられています。そこで、土つくりにケイ酸入り資材を施用しなかった水田では、出穂期の30~40日前頃に「けい酸加里」や「ウォーターシリカ」等のケイ酸資材を施用すると高温障害の軽減が期待されます。また、生育後半の窒素不足は「白未熟粒」等の発生を助長します。このため、幼穂形成期(出穂25~20日前頃)以降に葉色が低下(葉色板で「コシヒカリ」では4以下、「彩のきずな」「彩のかがやき」では4.5以下)した水田では穂肥を施用しましょう。さらに、登熟後半まで光合成を維持できるよう収穫作業に支障がない限り、落水はできるだけ遅らせましょう。なお、刈り遅れは、「胴割粒」、「褐色米」、「くさび米」の発生を助長するため適期に刈り取りを行ってください。
●高温期における播種・育苗管理のポイント
秋冬どりのニンジン・ダイコン・ブロッコリー・キャベツなどの野菜の播種や育苗時期は高温となる7~8月に当たるため、近年の高温傾向の気象の影響によって発芽や生育の不良が目立っています。その原因は、これらの野菜の発芽・生育適温が15~20°C前後であるのに対して夏野菜並みの30°C前後の環境で播種・育苗が行われているためです。これには、高気温や強日射による地温の上昇も大きく影響しています。
発芽不良の対策として、ニンジン等の露地栽培やブロッコリー等の育苗に当たって、播種後から発芽揃いまで地表を白寒冷紗や稲わら等で被覆すると、遮光によって地温の上昇を抑え、乾燥防止にもなります。その際注意が必要なのは、寒冷紗等の被覆資材の除去が遅れると苗が徒長してしまうので、発芽を確認できたら早めに除去しましょう。苗が徒長すると根部の生育が劣り、定植作業などに支障を生じます。
生育不良の対策として、ダイコンやレタス等の露地栽培では白黒ダブルマルチを利用したり、ブロッコリー等の育苗では育苗箱やセルトレイを直置きしないでベンチやコンテナの上に置いて育苗して、地温の上昇を抑制すると良いでしょう。なお、灌水は、日中を避けて早朝や夕方に行って地温の低下を図ってください。
●大雨に対する事前対策
近年多発している高温期のゲリラ豪雨や台風襲来時の大雨によりほ場が冠水したり浸水して、ネギやブロッコリー等では湿害や病害が多発して作柄不良を招いています。これら湿害に弱い野菜では、作付前までにほ場の周囲に必ず排水溝を設置し、定植うねは高めにするなど、雨水が停滞しないよう万全の対策を講じておきましょう。なお、良質堆肥の施用や休閑期中の緑肥作物の作付・鋤込みなどによる土壌物理性の改善にも心掛けてください。
これからのシーズン、農作業時には水分補給と休憩をとるなどの熱中症対策にもご留意ください。
広報誌「さいたま」2020年5月 No.242号より
春から農作業が本格化します。農作業事故が起きないよう安全対策に努めましょう。
1年間で報告された農作業事故は39件、うち死亡事故は2件です。過去10年間の農作業事故件数は、年30~40件で横ばいとなっており(図1)、年齢別では、60歳以上が29件と全体の74%を占めています(図2)。
図1 過去10年間の農作業事故件数
図2 年齢別の農作業事故発生状況
(平成31年1~令和元年12月、39件)
図3 過去10年間の事故要因別割合
(平成22年~令和元年、369件)
図4 事故内容別の発生件数と割合
(平成31年1~令和元年12月、39件)
○横転したトラクタの下敷きになり死亡する事故が発生
○つまずき・転倒事故が多く発生
○機械への巻き込まれ事故が多く発生
○熱中症の発生件数が増加
広報誌「さいたま」2020年4月 No.241号より
まもなく本格的な稲作シーズンを迎えます。ここでは、田植え前後の管理のポイントを紹介します。
土つくりは稲作の基本です。特にケイ酸は、丈夫なイネをつくり、収量・品質の向上に役立ちます。耕起前にケイ酸入り資材を施用しましょう。また、深耕はイネの根張りを良くし、暑さや病害虫に強いイネを作るために重要です。深さ15cmを目標にしてください。ただし、上層の肥沃な土が下層に分散するため、一度に深く耕さず、毎年2~3cm程度深く耕うんしましょう。また、ほ場に凸凹があり、田植え後に田面が露出すると除草剤の効果が低下します。ほ場が均平になるように耕うんしてください。
種子伝染性の病害虫防除のため種子消毒は必ず実施してください。その方法には温湯消毒と農薬による消毒があります。また、苗立枯病の発生を防止するため育苗箱と育苗資材の消毒を必ず行いましょう。
浸種の水温は10~15℃とし、積算温度が100~120℃(水温が10℃で10日間、15℃で7日間程度)を目安に行います。催芽は温度28~30℃で15~20時間程度かけてハト胸状態(芽が 0.5~1mm出た状態)になるよう行いましょう。30℃以上の催芽は細菌による苗腐敗が発生しやすいので注意が必要です。
播種後の水管理は、潅水が多すぎると根の発達阻害や苗の徒長をまねくため、育苗初期は一日一回朝方に行いましょう。育苗期後半には天候や土の乾き方に合わせて朝と昼頃に潅水してください。
近年、ヒメトビウンカが媒介する縞葉枯病が恒常的発生し、「コシヒカリ」や「キヌヒカリ」などでは減収の最大要因となっています。本病の対策は、ヒメトビウンカの防除が必要で、ウンカ類に有効な箱施薬剤を施用すると効率的に防除ができます。なお、「彩のきずな」「彩のかがやき」は本病の抵抗性を持つため、防除の必要はありません。また、昨年発生の多かったいもち病は、殺虫剤と殺菌剤の両方を含む箱施薬剤により害虫類と同時に防除できます。
田植え後、苗が活着するまではやや深水(4~5㎝)で苗を保護し、活着後は、浅水(2~3㎝)により、分げつの促進を図ります。
なお、昨年は台風19号による浸水や頻繁な降雨により秋期に耕起できなかったほ場が多く見られました。冬期以降の耕起では稲株等の腐熟が不十分で、田植え後に稲株等の分解のために土壌中の酸素が使われ、土壌が還元状態になり、「ワキ」と呼ばれる根に有害なガス(硫化水素)が発生します。この場合は、軽い田干し(1~2日間落水)を行い、ガス抜きをしてください。