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営農情報(2021年度)

有機物を効果的に活かした春夏野菜の栽培

広報誌「さいたま」2022年3月 No.264より

 3月から4月にかけて春野菜や夏野菜の栽培がスタートします。その作柄を大きく左右する要因は気象ですが、プロの農家でもこれを容易にコントロールすることは困難です。その影響を少しでも軽減する手段として、これまでの土壌管理が見直されています。本誌2月号で土づくり対策の基本について紹介しましたが、土づくり・施肥に利用している有機物の特性と効果的な施用方法をより詳しく紹介しますので、環境にやさしく、しかも異常気象に負けない野菜栽培に活用してください。

1 有機物の特性と効果的な利用

 野菜栽培の土づくり・施肥に使用する有機物は下記の3グループに大別されます。これらの有機物の特性は、作物の成長のために利用される肥料成分の種類や多少を示した「肥料的効果」と、根の成長に関係する土壌の保水性や透水性を良好にする「物理的効果」に分けることができます。主な有機物について、特性を整理すると表1のとおりです。施用にあたってはこれらを参考に効果的に利用しましょう。

①油粕類等の有機質肥料

 ナタネ油粕や米ぬか等の有機質肥料は、物理的効果は低いですが肥料的効果が高く、窒素分を多く含んでいるため相当量を施用すれば化学肥料並みの施用効果を得ることができます。ただし、肥効が現れるまでには時間を要し、作付けの直前に施用するとアンモニア等のガスが発生したり有機酸を生成して作物に障害を生じやすいので注意が必要です。また、タネバエなどの害虫を誘発して被害を受けることもあるので、作付予定の1カ月前までにほ場に施用し土壌とよく混和して分解腐熟を進めておくことが大切です。

②家畜糞堆肥や落ち葉堆肥

 鶏糞・豚糞・食品残渣等とおがくず等を混合発酵させて作った堆肥は、有機質肥料並みの肥料的効果の高いものがある反面、施用量が多過ぎると土壌養分過多となって生育に影響するので注意してください。特に温暖な春夏作では障害を生じやすいので、適量を施用してください。特に安価で入手可能な鶏糞の現物は、りん酸・カリ分も多く含んでいるバランスの良い有機物ですが、石灰とアルカリ含量が高い製品が多く、施用量が多いと土壌pHが高まってジャガイモ「そうか病」、サツマイモ「立枯病」が重症化しやすいので注意が必要です。一方、ホウレンソウ等の葉物野菜では土壌pH改善などのメリットが期待できます。また、牛糞や落ち葉を主原料にした堆肥は、肥料的効果はやや低いですが、施用によって土壌の団粒化が進み保水性や透水性を良好にします。窒素過多や多水分による影響を受けやすいサツマイモやトマト等の栽培には積極的に利用すると良いでしょう。

③稲わら・もみ殻・剪定枝チップ等の未熟有機物

 これらは有用な有機物資源ですので、無駄にせずに活用を進めたいものです。利用に当たっては、主成分が難分解性のセルロースやリグニン等で炭素/窒素比が高いために、現物のまま施用すると窒素飢餓(欠乏)などの障害が発生します。土づくり資材として利用するには、必ず米ぬかや鶏糞等の窒素分を多く含む有機物と混合発酵させて堆肥化して利用しましょう。また、もみ殻や剪定枝チップはくん炭に加工して利用すると土壌の保肥力向上や有用微生物の増加が期待されます。なお、夏野菜の栽培では、現物は敷きわら、ハウス周りやうね間・通路にマルチング資材として利用すると良いでしょう。地温上昇や雑草繁茂の抑制、乾燥防止に役立ちます。

2 下層土の改良と組み合わせた有機物の利用

 近年、夏期には記録的な大雨によって排水不良なほ場では湿害が多発しています。その原因の一つは、大型トラクターなどの耕うんによって下層土が硬くなる圧密化や硬盤形成のためで、下方向への水の浸透が悪化して起きています。その改善に、深耕と組み合わせて物理的効果の高いもみ殻等の未熟有機物や牛糞堆肥を施用・混和する対策をお勧めします。なお、深耕は、ほ場全面に行うのではなく、枕地付近やうねの真下を中心に深さ30~40cm位まで部分的に耕起すると有機物の施用効果を高め、また深根性のナス等では草勢を維持しやすいので、是非実施しましょう。

表1 主な有機物の特性比較
有機物名 肥料的効果(肥料成分の多少) 物理的効果 適施用量
(kg/m2
施用上の注意等
窒素 りん酸 カリ C/N比 その他
油粕類 △~○ 0.1~0.2 作付直前施用でガス・虫害発生
魚粕類 0.1~0.2 作付直前施用でガス・虫害発生
米ぬか 0.1 作付直前施用でガス・虫害発生
食品残渣・生ごみ 作付直前施用でガス・虫害発生
食品残渣等堆肥 低~中 0.2~0.4 ペレット化で散布しやすい
鶏糞(堆肥) 石灰多 0.5 多施用でアルカリ化、生糞でガス発生
豚糞堆肥 低~中 0.5~1 多施用でりん酸・カリが過剰
牛糞堆肥 1~2 多施用でりん酸・カリが過剰
落ち葉堆肥 2~4 多施用で乾燥害発生
もみ殻・樹皮堆肥 2~3 多施用で乾燥害発生
生稲わら・刈り草 ○~ 多施用で窒素飢餓・乾燥害発生
生もみ殻 多施用で窒素飢餓・乾燥害発生
剪定枝 針葉樹は発芽抑制物質を含む

注)効果欄の表示 :多または高い、○:中、△:少または低い C/N比:炭素と窒素の含量比率(腐熟度の目安)

土作りをしましょう!

広報誌「さいたま」2022年2月 No.263より

 農産物の収量・品質向上には、土作りがかかせません。
 土作りは、単にたい肥を入れるというだけではなく、耕作している農地の性質を把握し、それに対応した方法を取るようにしましょう。

1 土壌診断のすすめ

 年に1回以上、自分の生産農地の土壌診断を行いましょう。
 土壌診断の結果が出たら、その数値に一喜一憂せず、TAC振興センター職員等から診断結果についての面談を受け、今後の対策を検討しましょう。

2 土壌の改善方法
(1)物理性改善

 深耕や天地返し等を行って、団粒構造を改善し、排水や通気性などを良くしましょう。

(2)化学性改善

 土壌診断結果をもとに、適正な施肥を実施しましょう。

(3)生物性改善

 良質なたい肥を施用し、土壌中の優良微生物を増やしましょう。

3 たい肥の施用について

 下表を参考に、各種の特性をふまえて、適切なたい肥を選択しましょう。

たい肥の種類 特性等
モミガラたい肥 野菜・花など何にでも向く。
バークたい肥 肥料分に樹皮を加えて発酵させたもの。
何にでも向くが、よく発酵させる。
鶏糞たい肥 野菜類に適する。肥料分が多いので多肥に注意する。
豚糞たい肥 野菜類に適する。鶏糞と牛糞の中間的肥効である。
牛糞たい肥 葉菜や果菜に適する。肥効はおだやかである。

 たい肥を施用する場合、完熟したものを使用しましょう。例えば、家畜糞たい肥ではアンモニア臭が消えているか、樹皮(バーク)たい肥では材料の樹皮がボロボロになるまで熟しているか等を確認しましょう。

これからの小麦の栽培管理について

広報誌「さいたま」2022年1月 No.262より

 昨年11月の天候は概ね好天に経過しましたが、定期的にまとまった降雨がありました。このため、上旬に播種された小麦の苗立ち・生育は順調に推移していますが、その後の小麦では播種や出芽の遅れが認められます。ここでは、これからの小麦の栽培管理について紹介します。

踏圧

 踏圧は、分げつを旺盛にし、凍上害を防止します。特に、茎立期直前の踏圧は、茎立ちの早期化を抑え、穂揃いを良くして成熟ムラの無い倒伏しにくい麦にする効果があります。

追肥

 「さとのそら」の追肥は、追肥体系では基肥の窒素成分が6~8㎏/10aの場合、出穂2週間前(4月上旬)にタンパクの向上のために窒素成分で3~4㎏/10a行います。ただし、茎立ち後の追肥が困難な場合は、茎立ち期(3月上中旬)に3~4㎏/10aの追肥を行います。また、「農林61号」では茎立ち前に2~3㎏/10aの追肥をしましょう。

雑草防除

 これからの広葉雑草の防除は、アクチノール乳剤やエコパートフロアブルなどを散布します。また、スズメノテッポウに対してはハーモニーDFなどで防除します。一方、カラスムギ・ネズミムギに対しては小麦生育期には有効な薬剤がないため、抜き取りや麦収穫後の石灰窒素処理など次作に向けた対策を行います。なお、薬剤により使用時期が異なりますので、使用時期を確認して使用してください。

病害虫防除
  1. 「うどんこ病」は、3月中旬頃から下葉に発生し、多肥圃場や過繁茂傾向の圃場で多発します。防除時期は4月上旬~5月上旬です。
  2. 「赤さび病」は、4月中旬頃から発生し、初発生以降の気温が高めで降水頻度が少ない場合は急激に病勢が進展します。防除時期は「うどんこ病」と同様に4月上旬~5月上旬です。
  3. 「赤かび病」の病原胞子は4月上旬頃から飛散し、特に、降雨後に飛散量が多くなります。また、小麦の穂が感染しやすい時期は開花期です。このため、開花期に降雨があると感染・発病が多くなります。防除適期は、開花期(出穂後7~10日頃)です。また、開花期後も降雨が続く場合は、開花後10日頃にも追加防除が必要です。本病菌は、人や家畜に中毒を起こすカビ毒を産生し、赤かび粒が混入すると出荷ができなくなるので、発病前に必ず防除をしてください。
  4. 「条斑病」は、管内の小麦連作圃場で発生が認められています。本病は、茎立ち後の3月中旬頃から下葉に淡黄色の条斑が葉脈に沿って現れます。その後上位葉へ進展すると出穂しないか出穂しても不稔あるいは登熟不良となり減収します。主な伝染原は土壌中の被害茎葉ですが、種子伝染もします。小麦収穫後、30日間程度湛水すると本病菌は死滅しますが、湛水できない小麦連作圃場では有効な防除対策はありません。遅まきほど発生を抑制できますが、遅まきによる減収を招きます。
  5. 「アブラムシ類」は、出穂期前後から発生が増加し、乳熟期に最も密度が高くなります。穂に多数寄生すると登熟不良となり千粒重が低下します。多発生のおそれがある場合は防除が必要です。
    防除薬剤は、「うどんこ病」、「赤さび病」及び「赤かび病」のいずれの病害にも登録のある薬剤にはシルバキュアフロアブルやストロビーフロアブルなどがあります。「アブラムシ類」の防除薬剤にはスミチオン乳剤やモスピラン水溶剤などがあります。なお、薬剤防除を行う場合は、使用時期、使用回数、希釈倍数などを十分確認して実施してください。


コムギ赤かび病


コムギ条斑病

農産加工所の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」について

広報誌「さいたま」2021年12月 No.261より

 平成30年6月の食品衛生法の改正により、令和3年6月から食品の製造・加工、調理、販売等を行うすべての食品事業者に対してHACCPに沿った衛生管理を行うことが完全義務化になりました。
 直売所に加工品を出荷している農業者の皆さんも該当になります。
 安心・安全な加工品を作るため、HACCPに取り組みましょう。


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1 HACCP(ハサップ)とは?

 HACCPとは衛生管理手法の一つで、食品を扱う過程において、これまでの衛生管理を基本としつつ、重要な工程を管理し、記録を残し、食品の安全性を確保する方法です。食中毒や異物混入などの健康被害の未然防止につながります。

2 HACCP制度化の目的は?

 食品の一層の安全を確保するためです。近年、広域的な食中毒の発生や、食中毒件数の下げ止まり傾向があり、事業者によるより一層の衛生管理が必要とされています。
 また、食を取り巻く環境変化や国際化に対応していくためにも役立ちます。


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3 加工に取り組む皆さんが行うことは?

 皆さんが取り組むことは次の3つです。

  1. 衛生管理計画を作成する。
    日頃から行っていることを照らし合わせながら、「いつ」「どのように」行い、「問題のあった時はどうするのか」の対応を記入しましょう。
    各業界団体が作成する手引書を参考に普段の作業を確認することも大切です。
  2. 作成した計画を実行する。
    作成した衛生管理計画に従って、日々の衛生管理を確実に実施します。
  3. 実施した内容を確認・記録する。
    作業内容を日々記録し、きちんと計画どおりできているか確認します。
★ 記録を保存しておくと… ★
  1. 衛生管理のポイントをはっきりさせ、健康被害などの事故を未然に防げます。
  2. 問題が起こった時、衛生管理をしっかり行っていた証拠書類になります。
  3. 業務の見直しができ、効率化につながります。


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参考HP

厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html
食品等事業者団体が作成した業種別手引書:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00003.html

果樹苗木の植え付け適期です

広報誌「さいたま」2021年11月 No.260より

 落葉果樹では葉が落ちる11月~3月、冬期に落葉しない常緑果樹(柑橘など)では、少し寒さの緩む3月頃が植え付け適期となります。
 県内で生産量の多い「なし」、「ぶどう」などの落葉果樹は、適期の中でも、初期生育向上のために年内に植え付けするのが理想です。

受粉樹について

 果樹には、1本では結実しない樹種や品種があります。家庭でも育てやすい「うめ」、「ブルーベリー」、「くり」等は、自分の花粉では結実しにくいものが多いので2品種以上混植します。1本でも実が着く自家和合性品種もありますが、樹種、品種選定の際は受粉樹の有無を確認しましょう。

苗木の取り扱い

 苗木の根は乾かさないようにします。苗木が届いたら、バケツに水を入れつけるなどして、一晩程度十分吸水させます。すぐに定植できない場合は、適度に湿った土壌に仮植し、乾燥させないようにします。

植え付け手順
  1. 植穴の直径は、根を広げて入る程度の大きさ、深さは接ぎ木部が地表から出る程度の深さに掘ります。苗木が沈まないように深く掘り過ぎないように注意します。
  2. 接ぎ木テープを取り除きます。白紋羽病が心配な樹種は、登録がある農薬を根部浸漬処理した後に植え付けます。
  3. 根は放射状に均一に配置し、株元は浅く、先端はやや深くなるように広げます。この時、根が重なっているもの、巻き込んでいるものや、腐敗している部分などを健全部まで切り戻し整えます。
  4. 土を埋め戻し、足でよく踏み固め、支柱をぐらつきのないように立てます。風で揺れないように、ひもで支柱と苗木を8の字に縛り固定します。ひもが苗木に食い込まないように、苗木には少し余裕をもたせて固定します。(図1)
  5. 樹種や仕立て方により、苗木の切り戻す長さを調整します。しっかりとした芽の上で切り、切り口には癒合剤を塗ります。


図1 苗木の植え方

植え付け後の管理

 植え付け後、降雨がなければ、土が乾燥しないようにかん水します。株元に敷きわら等をし、乾燥防止と除草対策としてもよいでしょう。
 幼木での落葉はその後の樹冠拡大にも影響が出ます。病害虫の発生や水管理に気を付けましょう。

農業経営の法人化を進めましょう!

広報誌「さいたま」2021年10月 No.259より

 農業経営の法人化には、①農業経営の高度化・効率化、②対外信用力の向上、③優れた人材の確保、④経営継承の円滑化(相続対策)、⑤税の軽減 など、多くのメリットが期待できます。「法人化」は経営を発展・継続させるための『手段』であり、特別なことではありません。先ずは検討するところからはじめてみましょう。

 さいたま農林振興センターでは、法人化メリット・手続きなどの説明のほか、専門家による個別相談会を開催しています。個別相談会の費用は無料です。法人化や雇用の導入、その他、頭のなかで描いている経営イメージの具体化に向けて、踏み出してみませんか。

 個別相談会は、上記(法人化)のほか、幅広い内容での対応が可能です。

主な専門家の項目 主な相談内容 費用 備考
税理士 法人化のメリット、適否 など 無料
  • ・会場は「自宅」または「当センター」で行います。
  • ・時間は1.5~2時間/回です。
  • ・先に経営状況やご意向をお伺いします。
  • ・日程は個別に調整させていただきます。
社会保険労務士 雇用契約の留意点、
労務管理制度
(雇用ルール、社会保険) など
行政書士・司法書士 法人化メリット、手続き など
弁理士 商標登録 など
中小企業診断士 経営分析、経営計画 など
デザイナー 販売促進資材、ホームページ、
6次産業化商品デザイン など

※相談内容等によっては、ご希望に添えない場合もありますのでご了承ください。
(お問合せ:さいたま農林振興センター 新規就農・法人化担当 TEL048-822-1007)

食品の営業届出をお願いします

 食品衛生法が改正され、新しく「営業届出制度」が創設されました。
 「営業届出」には野菜・果物の販売業、簡易な食品製造業・加工業(もちの製造など)などが該当します。届出営業であっても食品衛生責任者を設置することになったため、過去に営業届出を行っている方でも、再度届出が必要となります。
 この届出は令和3年11月30日までにお住まいの地域の保健所に提出をする必要があります。
 該当の方は最寄りの保健所までお問合せください。

  • ・南部保健所048-262-6111(蕨市、戸田市)
  • ・草加保健所048-999-5515(草加市)
  • ・鴻巣保健所048-541-0249(鴻巣市、上尾市、桶川市、北本市、伊奈町)
  • ・さいたま市保健所048-840-2205(さいたま市)
  • ・川口市保健所048-266-5557(川口市)

農薬による事故防止と安全で適正な使用

広報誌「さいたま」2021年9月 No.258より

 近年の気象変動から新しい病害虫や難防除の病害虫が増加して、作物栽培において農薬による防除への依存度は高まっています。その一方、農薬の使用に当たっては安全な農産物の生産はもちろんのこと、危被害防止や環境保全への配慮が求められています。日ごろの農薬による防除作業のリスクをもう一度見直し、より安全性に配慮した農薬の使用に取り組んで頂きたいと思います。

1 農薬使用に伴う事故や被害の原因

 農林水産省が行った農薬使用に伴う事故・被害の発生状況調査によると、平成27年度~令和元年度の5年間に全国で104件の人的事故が発生し、191人が被害を受け、12件12名が死亡したと報告されています。このほか、農作物や河川等の魚類への被害も66件ありました。人的被害の原因としては、農薬の保管管理不良等による誤飲誤食が最も多く、次いで防除時のマスク・服装等の装備が不十分、土壌くん蒸剤(クロルピクリン剤等)使用時の被覆が不十分であったなどの農薬使用後の管理不良、強風中や風下での散布時に散布作業者等が農薬を暴露したなどとなっています。一方、農作物被害の原因には農薬の飛散防止対策が不十分だったために起きたもの、魚類被害の原因には農薬の散布機材の洗浄液が河川に流入して起きたものなどがあります。いずれも、農薬使用時に遵守すべき事項をおろそかにした結果生じたものです。農薬の使用に当たっては、自分自身がこの様な事故を起こすリスクを負っていることを改めて考えたいものです。

2 農薬による事故・被害を防止するための対策

 近年起きている事故・被害の発生状況を踏まえて、発生防止を図るために必要な対策は下記のとおりです。

(1)農薬の保管管理の徹底 : 毒物又は劇物に該当する農薬だけでなく、全ての農薬について、安全な場所や保管庫等に施錠して保管しましょう。保管農薬名と使用数量等は使用簿に記録し、使用残農薬や有効期限を経過して不要になった農薬等は放置しないで、廃棄物処理業者等に依頼するなど適正な処分をお願いします。なお、誤飲事故を防ぐため、農薬を飲料用ペットボトル等のへ移し替えは絶対にしないでください。

(2)防除作業時の健康管理と暴露防止 : 防除作業前後には飲酒を控え、十分な睡眠をとるなどの健康管理に留意し、体調不良時の作業は避けましょう。また、農薬の調製・散布時には、農薬用マスク(3Mマスク等)や手袋、防除衣などの防護装備を着用し、慎重に農薬を取扱ってください。

(3)土壌くん蒸剤の適正な取扱いを遵守 : 土壌消毒に使用するクロルピクリン剤等の土壌くん蒸剤は土壌に注入後に気化して空気中に揮散し周辺に不快な臭気を生じるため、市街地での使用を避け、使用時は薬剤の有効成分が揮散しないよう地表面をビニールフィルム等で確実に被覆するなど使用基準を遵守して取扱いましょう。土壌消毒には、土壌くん蒸剤に代わる粒剤等の農薬(表1)もあるので活用してください。

(4)農薬の飛散(ドリフト)防止対策を徹底 : 散布作業は、風の強くない朝夕の涼しい時間帯を選んで行いましょう。その際、風向きや散布方向などにも注意してください。風速が3m/秒以上(木の葉が揺れる程度)の時には飛散量が増加しやすいので、散布を控えましょう。また、適切なノズルを使用し、適正な散布量で圧力調整を行って散布するなど万全の対策を講じてください。なお、ドリフトが心配される圃場や農作物では、ドリフトしにくい粒剤の土壌混和や液剤の土壌灌注等の処理方法を利用すると良いでしょう。

(5)河川等流域への農薬流出事故の防止 : 魚類等への被害発生を避けるため、使用後に残った調製液や散布に使用した器具・容器を洗浄した水は、排水路や河川等に直接排水することは避けましょう。この様な事故を防ぐため、薬液の調製や防除機材の洗浄を現地圃場で行うことなども避けてください。

表1 土壌くん蒸剤に代わって土壌消毒に使用できる土壌処理剤の例(播種・定植前に使用する農薬)

区分 農 薬 名 適 用 作 物 主要な適用病害虫名 主な使用方法
殺線虫剤 ラグビーMC粒剤 さつまいも、さといも、しょうが、きゅうり、トマト、えだまめ、だいこん等27作物 ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、ダイズシストセンチュウ、コガネムシ類 播種前又は定植前、全面土壌処理混和
ネマトリンエース粒剤 さつまいも、じゃがいも、さといも、きゅうり、トマト、だいこん、にんじん等36作物 ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、ジャガイモシストセンチュウ 播種前又は定植前、全面土壌混和
殺菌剤 ユニフォーム粒剤 しょうが、にんじん、ねぎ、ごぼう、いちご、花き類・観葉植物等35作物 根茎腐敗病、しみ腐病、白絹病、黒あざ病、疫病、立枯病 播種前又は定植前、土壌表面散布又は全面土壌混和等
フロンサイドSCフロアブル はくさい、キャベツ、ブロッコリー、だいこん、かぶ、レタス、じゃがいも等19作物 根こぶ病、尻腐病、菌核病、苗立枯病、粉状そうか病、そうか病、軟腐病 播種前又は定植前、希釈液全面散布土壌混和

注)浸透移行性の粒剤使用時には、つまみ菜・間引き菜を収穫・出荷しないよう注意してください。

水稲適期収穫のポイント

広報誌「さいたま」2021年8月 No.257より

1 7月上旬までの生育状況

 早期栽培の「コシヒカリ」や、早植え栽培の「彩のきずな」の生育は概ね平年並みですが、降雨により中干しが十分に行えなかったため、茎数がやや多めとなっています。また、いもち病が発生しやすい状況ですので、水田の状態をよく観察し、病斑を見つけたら速やかに防除を行いましょう。

2 早期に落水しない

 早過ぎる落水は、品質低下や減収を招く恐れがあります。出穂前後7~10日の深水管理の後は、間断かん水に移行し、最終的に水を落とすのは出穂後30日以降とします。ほ場の条件によって違いはありますが、収穫作業に支障がない限り、完全に落水するのは収穫10日前から2週間前にしましょう。

3 適期刈取りの目安

 早刈りは青未熟粒や充実不足、刈遅れは胴割米や薄茶米の増加など品質の低下につながります。刈取りに当たっては、「出穂後日数」と出穂後の「積算温度」と「帯緑色モミ割合」(図1、2参照)をみて、総合的に判断して下さい。なお、異常な高温や日照不足が続いた場合など、極端な気象条件下では目安がズレてしまうことがあるため、試し擦りをするなどして、刈取り適期を逃さないようにしましょう。

品種 作型 出穂後の積算温度(°C) 帯緑色モミ割合(%) 出穂後日数(日)
あきたこまち 早期 850~1,000 約10 33~37
コシヒカリ 早期 950~1,150 10~15 35~44
彩のかがやき 早植 910~1,110 穂の下部3割程度 35~44
普通 1,010~1,250 穂の下部2割程度 44~58
彩のきずな 早植 900~1,200 50~10 35~48
普通 900~1,100 40~15 38~48

※作型の目安:早期(早生種を用いて早植えし、8月下旬から9月上旬に収穫できるもの)、早植(中晩生種を用いて5月末までに移植するもの)、普通(6月以降移植するもの)


図1 帯緑色モミ


図2 帯緑色モミ割合の見方

帯緑色モミとは、1穂の中でわずかでも青みが残っているモミのことです。穂を5~6本束ねて握り、青みが残っている籾の割合を自分の目で確認してみましょう。

4 適切な乾燥調製作業の実施

 乾燥仕上げの水分は、14.5%~15%を守り、過乾燥を避けましょう。 特に、高水分モミの高温急速乾燥は胴割米が多発し、検査等級低下の原因となりますので、送風温度は40℃以下で行います。また、ライスグレーダーの網目は1.8mm以上で選別し、適正流量を守って調製しましょう。

5 次年度作付への準備

 イネ収穫後のひこばえ(再生株)はヒメトビウンカの生息場所となり、翌年の縞葉枯病の伝染源となるので、収穫後は速やかに耕うんし、株を枯死させましょう。稲わらの早期すき込みは水田の土づくりにもなりますので、ケイカルやアズミンなどの土づくり資材を施用して行って下さい。
 また、最近問題になっているスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の対策としても、すき込みは効果的です。スクミリンゴガイの貝殻は薄く傷つきやすいため、ロータリーをかけることでダメージを与えられます。

令和4年度 埼玉県農業大学校学生募集

広報誌「さいたま」2021年7月 No.256より

 埼玉県農業大学校は、農業及び農業関連産業の担い手を養成することを目的とし、農業の生産から販売まで一貫して学ぶことができる、実習を主体とする専修学校です。

 学科は、卒業後には「専門士」の称号を得られる2年課程(野菜・水田複合・花植木・酪農)と、主に社会人経験者を対象とした1年課程(短期農業)があります。

 将来の農業の担い手を目指す仲間たちとともに、農業の基礎知識と基本的な栽培技術を身につけて、埼玉県で農業分野での活躍を目指しませんか。

 大学校では個別見学をお受けしておりません。日曜オープン見学会・個別相談会で見学・確認をお勧めします。
 入学願書など出願に必要な書類は埼玉県農業大学校ホームページからダウンロードできます。
 詳細はホームページで御確認ください。↓
https://www.pref.saitama.lg.jp/soshiki/b0921

募集人員
課程 学科名 定員
2年課程 野菜 30名 90名
水田複合 5名
花植木 15名
酪農 5名
1年課程 短期農業 35名
試験日程
入試区分 出願期間 試験日
推薦入試 令和3.10.1(金)~10.12(火) 令和3.10.28(木)
一般入試 前期 令和3.11.1(月)~11.12(金) 令和3.11.26(金)
後期 令和4.1.4(火)~1.12(水) 令和4.1.27(木)※

※ 一般入試前期で定員が満たされた専攻は、一般入試後期の試験を実施しない場合があります。定員が満たされない専攻については、追加募集を行う場合があります。最新の情報については、大学校ホームページで御確認ください。

日曜オープン見学会・個別相談会 ※開催日の3日前までに電話等で申込が必要です※

・開催日
9月5日、10月3日、11月7日、12月19日(いずれも日曜)
午前の部(見学会:概要説明、校内見学)10時~12時
午後の部(個別相談会 ※ 希望者のみ)13時30分~15時30分

・申込電話
大学校 048-501-6845(土日、祝日を除く8時30分~17時15分)
大学校ホームページから電子メールでの申し込みもできます。

○上記のほか、大学校での実習体験講座(8月20日)、JACK大宮5階での夜間相談会(8月27日19時)を予定。詳細は大学校ホームページでご確認ください。

夏期の高温等に対応した農作物管理

広報誌「さいたま」2021年6月 No.255より

 本年は、10年に一度の気象平年値の更新の年に当たります。新平年値では熊谷地方気象台の平均気温の平年値が6月は0.6℃、7月は0.7℃、8月は0.3℃それぞれ高くなり、地球温暖化による昇温傾向が反映されています。ここでは、高温等に対応した農作物の管理について紹介します。

水稲の高温障害対策について

水稲は、出穂後に高温に遭遇すると、(1)白未熟粒、(2)胴割粒、(3)くさび米や褐色米(ヤケ米)等が発生し、玄米品質が大きく低下します。これら高温障害の対策には、生育後半までイネの活力を維持することが重要です。ケイ酸には根の活力を維持する効果があります。作付け前にケイ酸を施用していない水田では、出穂前45~35日頃、ケイ酸カリ等を施用すると水分や肥料分の吸収が向上し、白未熟粒等の発生軽減が期待できます。また、生育後半に窒素不足にならないよう品種に応じた適正な穂肥を施用しましょう。中干し以降の水管理は、出穂期前後1週間は深水管理とし、その後は間断かん水を行い、根の活力維持に努めます。なお、早期落水は登熟を阻害し、品質低下を招くため、落水時期は出穂後30日を目安にしてください。一方で、高温条件では成熟期が早まるため、通常より2~3日早めの収穫を心がけてください。

猛暑期に備えた夏秋野菜の高温・湿害対策について

 近年、温暖化傾向を反映して日最高気温が35℃以上となる猛暑日の日数が7月~8月に増加しています。この時期を経過する多くの野菜に湿害による作柄不良の被害が目立っています。これは、この間の異常な高温にゲリラ豪雨や台風襲来に伴う大雨が加わって生じたもので、土壌の過湿と高温に伴って土壌中の酸素濃度が薄くなって酸欠状態に陥り、根の吸水・吸肥機能が低下したり、根腐れや土壌病害の感染を受けて発生した障害です。野菜が栽培される畑の土壌中の酸素濃度は通常20%程度ですが、降雨によって畑に長時間滞水する状態になると10%以下に低下することでこのような障害が発生すると言われています。

 このような影響を軽減して野菜の作柄を安定化するため、今夏は次の対策に取り組んでください。

(1)耐湿性の低い野菜の作付には注意 : 夏秋野菜の内、ホウレンソウ・コマツナ・サツマイモ・ニンジン・ダイコン・キャベツ・ブロッコリー・ネギ等は耐湿性が低く、数時間~1日間程度湛水状態になると大きな障害が発生します。そのため、これらの作目は高温多雨となる時期の作付を避けて栽培するか高うねにするなど徹底した排水対策等を行いましょう。

(2)圃場の滞水・排水状態を確認 : 日頃から降雨時に圃場内の雨水の滞水状態を観察して、滞水しやすい場所を確認しておくとともにその原因を究明しておきましょう。原因の一つとして、大型農機等の踏圧による耕盤(圧密層)形成や堆肥等の有機物施用の不足による水の浸透不良が目立っているので、作付前に心土破砕等の改善策を講じておきましょう。

(3)適期に適正な管理作業で被害を軽減 : 高温期となる7月~9月に作付する野菜では、急変しやすい気象変動を念頭に圃場の排水条件の有無に関わらず適期管理に留意してください。特に、ニンジン等の播種やキャベツ等の定植は適期を逃した場合、収穫時期や収量・品質に影響します。栽培期間中に行う中耕作業は、土壌中の酸素濃度を高めて根の活性を良好にして湿害を軽減・回避する効果があります(高温・過湿時には避けてください)。湿害を生じやすいネギ等では、定植時や土寄せ時に株元付近に土壌中に酸素を供給する効果のある「酸素供給剤」や、土壌の透水性・通気性を高める「もみがら」を散布すると良いでしょう。


長期の滞水によって湿害が発生したネギの圃場

アライグマの農作物被害について紹介します。

広報誌「さいたま」2021年5月 No.254より

 アライグマによる農作物被害は増加傾向であり、都市近郊地域でも近年生息域が拡大しております。

(1)被害について

 アライグマは神社仏閣・住宅の屋根裏・物置・廃屋等を利用し、餌場の近くに複数のねぐらを作ります。ねぐらを転々と移動しながら収穫時の農作物に被害を与えます。

 また、アライグマは雑食性で何でも食べます。トウモロコシやぶどうはよく知られておりますが、この他に水稲の苗や稲刈り後のひこばえ、民家にある柿の収穫残しもアライグマの餌となり、農村地域・集落は格好のすみかになります。

(2)対策について

 アライグマの住みやすい環境要因をなくしましょう。特に個体数の増加を手助けしている餌を与えないことが重要です。前述した水稲の苗は無防備な状態で置かないようにしましょう。稲刈り後のひこばえについては、収穫後に早期の耕うんを実施しましょう。柿の収穫残しについては、収穫が難しいようなら柿の木の伐採も考えましょう。

 また、ほ場への侵入防止策を実施するのも効果的です。防獣ネットや電気柵等を活用し、農作物の被害を防ぎましょう。

(3)アライグマ捕獲従事者研修会について

 県ではアライグマ捕獲従事者を育成するため、アライグマ捕獲従事者研修会を開催しております。研修会では野生鳥獣の行動習性についても学ぶことができるので、野生鳥獣の理解にもつながります。

 研修会の申し込みについては、お住まいもしくは捕獲に従事する予定の各市町を通じて受け付けしておりますので、各市町へお問い合わせください。


アライグマ:しっぽが縞々、両目を覆う黒い帯がある。


電気柵の手前で立ち止まり様子をうかがっている。

【埼玉県農業技術研究センター提供】

田植え前後の管理のポイントについて

広報誌「さいたま」2021年4月 No.253より

 まもなく田植えの季節を迎えます。ここでは田植え前後の管理のポイントについてお知らせします。

ケイ酸入り土壌改良資材・肥料の施用

 ケイ酸には根の活力を維持する効果があります。ケイ酸を多く含むイネは、水分や養分吸収が旺盛となり、光合成が高く維持されるとともに葉からの蒸散が活発になることで穂温の上昇を抑え、乳白米などの高温障害の発生率を抑制することが期待されます。加えてケイ酸には病害虫抵抗性の増大や倒伏軽減などの効果があります。ケイ酸を含む土壌改良資材・肥料(ケイカル、ようりん、農力アップ、ケイ酸加里プレミア34など)を施用しましょう。

浸種・催芽時の留意点

 浸種は、水温10~15℃で行い、積算温度(水温×日数)が100~110℃を目安としましょう(水温12℃で9日間前後)。なお、令和2年産種子は、登熟期の高温の影響で休眠が深い傾向があるため、例年より十分な浸種を心がけてください。浸種後は、籾をハト胸程度(幼芽長が0.5~1mm程度)まで催芽して播種します。この際、催芽が不十分であると苗の生育がばらつき、逆に芽が伸び過ぎると播種作業で芽が傷つくので注意が必要です。


ハト胸状態の籾

病害虫防除のポイント

 苗立枯病は、数種類の異なる病原菌が原因で発生します。特に、ハウス育苗では急激な温度変化により発生が助長されるため、温度管理に注意が必要です。また、育苗箱には病原菌が残存していることがあり、使用前にイチバンやケミクロンGで必ず消毒しましょう。

 本田期の病害虫防除は、「コシヒカリ」や「キヌヒカリ」等の縞葉枯病感受性品種(抵抗性を持たず発病する品種)では本病を媒介するヒメトビウンカを防除するため、ルーチンアドスピノ箱粒剤や防人箱粒剤などウンカ類に有効な成分を含む箱施薬剤の施用が必要です。

 また、昨年は暖冬によりスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の越冬量が多く、田植え後にイネを食害された水田が多くありました。また、生息地域は年々拡大しています。本貝の生息水田では移植後2~3週間は4cm以下の浅水管理とし、貝の密度が高く食害が予想される水田では田植え後にスクミノンなどの防除薬剤を施用しましょう。


スクミリンゴガイと卵塊

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